13期 南部健一さんから 寄稿頂きました。

反戦平和の熱望

        13期  南 部 健 一

 人間は闘争の遺伝子と平和希求の遺伝子を持つ。後者の遺伝子は壊れやすい。壊れると戦争になる。戦争で嘆き悲しむのは為政者ではなく人民である。
一人の女と一人の男の悲嘆に耳を傾けてみよう。そこには戦争に対する憤りと反戦の熱望が溢れている。女は東晋時代に呉に住んでいた子夜。後年、李白が子夜に成り代わって切ない思いを詠じた。

長安一片月 萬戸擣衣聲
秋風吹不盡 總是玉關情
何日平胡虜 良人罷遠征

空閨で独り見上げる満月。耳をふさいでも窓から聞こえて来る侘しい砧の音。秋風はいくら頼んでも吹き止まない。愛しいあんたは敦煌に出征したまま音信もない。寂しい、あんた寂しいよ。早く夷狄どもを皆殺しにして帰って来ておくれ。そして日も夜もなく私を抱いてほしい。

詩人王翰の親友が辺境の戦で戦死した。友を偲び独酌していると、黄泉の国の友が戦死前夜の戦場を語り始めた。

葡萄美酒夜光杯 欲飲琵琶馬上催
酔臥沙場君莫笑 古來征戦幾人囘

葡萄酒は紅く艶めく女の唇の色。なみなみと注いで俺はギヤマンの杯をあおる。もう一杯、もう一杯。どうにも止まらない。だれだ、馬上で琵琶をかき鳴らしているのは。折楊柳の曲ではないか。俺はまだ生きているぞ。酔いつぶれて砂漠にぶっ倒れても俺を笑うな。俺は明日出陣する。この辺境の戦で生きて帰って来た奴なんか、昔からほとんどいない。でも俺は死にたくない。生きて美味い酒を飲み、女も抱きたい。そこのあにい、もっと激しく、弦がぶっちぎれるまで琵琶をかき鳴らせ。

南部健一(13期) ◇南部健一(13期)東北大学名誉教授

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