からたちサロン18
マグロを食べるか、食べないか
◇安田 寛(13期)

ら・べるびぃ予防医学研究所
 理事
安田寛さん(13期)は、永年製薬企業にて創薬研究に従事され、エコナ―ルやエポザックなどを開発され、現在は、毛髪検査をする会社の理事をされ、毛髪に蓄積される有害金属や微量栄養素ミネラルの研究をされています。「綺麗な花にトゲがある、うまい魚にドクがある?」・・・今回はマグロと水銀の関係を紹介戴きました。
(サロンマスター 高田敬輔)


 マグロは、寿司ネタとして東京・神奈川など関東圏で珍重され、マグロ丼・中落ち丼・鉄火巻き・照り焼き・ステーキ・マリネなど、食卓に欠かせない食品となっている。特に「大トロ」には、健康サプリメントとして話題の多価不飽和脂肪酸 エイコサペンタエン酸(EPA)・ドコサヘキサエン酸(DHA)がタップリ含まれているので、健康・アンチエイジング指向の中高年世代には、魅力的な食品である。しかしながら、マグロには水俣病の原因となった「メチル水銀」も多く含まれていることを忘れてはならない。
(参考WEB; http://www.nimd.go.jp/kenko/kenko_01.html )

◆マグロに含まれる水銀量
 クロマグロに含まれる平均水銀濃度は1.3μg/g(ppm)であり、個体差(0.39 - 6.1 ppm)はあるが、大型魚の方が小さな魚よりも高い(インドマグロ・メバチマグロでも1.2 ppmと高く、イワシではマグロの1/60以下である)。
 自然界では水銀の多くは無機水銀の形で存在するが、海洋微生物によってメチル化される。メチル化された水銀は、プランクトン⇒小型魚介類⇒中型魚類⇒大型魚類といった食物連鎖により濃縮され、蓄積する。この食物連鎖の高位にあるマグロ・カジキ・イルカ・クジラ等には、海水濃度の10万倍にも濃縮される。特に、マグロの美味な脂身「大トロ」には、メチル水銀も多く含まれる。

図;メチル水銀の魚貝類での食物連鎖
海洋中のバクテリアがメチル水銀を作る。プランクトンがメチル水銀を取り込み、小魚がプランクトンを食べる。大きな魚が小魚を食べ、食物連鎖が進み、大型魚の水銀濃度が高くなる
◆ヒトでの水銀蓄積経路と体内蓄積量・・・毛髪で測定
 摂取された魚介類に含まれるメチル水銀は、消化管で 95%以上が吸収され、胎盤及び脳関門を容易に通過し、脳組織等に蓄積する。また、臍帯血水銀濃度は母体血濃度よりも高く、胎児期の脳はメチル水銀の影響を強く受けるので、特に注意が必要とされている。
 国立水俣病総合研究センターの論文では、マグロ消費量の多い千葉県民の毛髪水銀濃度が、水俣病発症の地「水俣市」や熊本県の昨今の住民よりも、男女共におよそ2倍高いことが明らかにされ、マグロ摂取と水銀蓄積との関連が示唆されている。
 2万8千余名の当社検査データでも、同様の結果が得られ、毛髪水銀濃度は加齢と共に高くなり、50-60歳代でピークに達した後、高齢化に伴い低下する。また、成人男性の方が女性よりも有意に高く、水銀蓄積量に男女差があることも確認されている。
 毛髪水銀濃度が10 ppmを越える比率を都道府県別に比較すると、関東圏と静岡県・三重県・和歌山県・高知県など太平洋沿岸地域で高く、他方、徳島県・香川県・広島県・山口県・大分県など瀬戸内海沿岸地域や佐賀県・島根県で低く、明らかな地域差が見られた。 この水銀蓄積の地域差は、都道府県別マグロ消費量ランキングと符合し、マグロ類を多食する食習慣との関連が示唆されている。因みに、魚介類摂取量の少ない欧米人では、毛髪水銀濃度も日本人の1/5 - 1/10と低い。

◆肥満・生活習慣病との関連
 毛髪水銀濃度は肥満者で高く、肥満度指数(Body Mass Index)と有意に正相関する。水銀とは逆に、マグネシウム・カルシウム・亜鉛は有意な負の相関を示し、水銀に対抗する為に必要なミネラルであることが裏付けられた。近年、水銀摂取と心筋梗塞との関連を示す論文や、マグネシウム摂取が生活習慣病のリスクを下げる論文も報告されている。

◆妊娠女性に対する注意
 日本人の平均水銀摂取量(約80%が魚介類から摂取)は成人の暫定耐容週間摂取量の約35%に相当し、平均的な食生活をしている限り、健康への影響を懸念する必要はないとされている。しかし、妊娠中に水銀濃度の高い魚介類を偏って多食すると、胎児の発育に影響を与える可能性が懸念され、厚生労働省は「魚介類に含まれる水銀に関する注意事項」を2005年11月に改訂した。特に、平均水銀濃度が暫定的規制値を超えるクロマグロ・メバチマグロについては、妊婦での摂取量の目安として、1週間当り80g程度(刺身1人前or切り身1切れ位)までと記されている。妊娠中の女性、並びに、将来出産を控えている女性には注意が必要である。

◆まとめ
 マグロを食するようになったのは、冷凍保存・輸送技術が発達した後であり、それまではマグロは腐敗し易く、食に適さない魚であった。魚屋にズラリ並んだマグロには、金沢で生まれ育ち、九州で20年間生活した小職には驚きであった。近江町市場でも北九州旦過市場でも、四季それぞれの旬の魚が一杯並び、マグロを見ることはなかった。
 関東圏在住の中年男性で、40 ppmを超える検査値を前にして、「マグロ無しには生きられない」と豪語する兵もいる。そのような方には、マグロの摂取回数・量だけでも減らすよう、又、水銀の解毒・排泄を促すように働くミネラル(亜鉛・マグネシウム・カルシウム・セレン)を多く含む食品の摂取もお奨めしている。
 多価不飽和脂肪酸EPA・DHAの摂取源としてのマグロの有用性については、イワシ・サンマ・サバ・サケ等にも多く含まれているので、それぞれの旬の時節に新鮮な魚を食することをお薦めする。 「マグロを食べる、食べない」は、食文化の問題であり、個々人の判断に委ねられることではあるが、本稿が皆様の健康長寿の参考になれば幸いである。
 本稿は、日本抗加齢医学会誌6巻6号 863-867 (2010))から抜粋されたものです。関心のある方は、ご連絡いただければ、原文をお送り致します。


◇プロフィール
 金沢生まれ、二水高等学校卒業(13期)後、金沢大学理学部化学科・理学研究科(修士課程)にて生物化学を専攻し、吉富製薬梶A雪印乳業鰍ノて創薬研究に従事(エコナール・エボザックを創製)。 薬学博士(九州大学) 現在:ら・べるびぃ予防医学研究所にて、有害金属・微量栄養素ミネラルに関する検査・研究を担当。 趣味は旅・ドライブ・テニス・音楽など、現在「食とミネラルの大切さ」を伝える論文執筆中。

 ら・べるびぃ予防医学研究所HP  http://www.lbv.jp/ 



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