からたちサロン06
ふるさとを出でて・・・自叙伝の法則
◇今井清博(13期)

法政大学生命科学部教授
 今井清博さんは物理部出身、第10回高峰賞受賞、阪大では電気工学科卒業後、大学院で生命科学を研究。
 工学・医学両博士号をもつ第一線の研究者。
 先日もTBS系テレビでヘモグロビンを熱分解し、鉄分を抽出する実験を見せてくれました。
今井さんの研究熱心は能登と金沢で育まれたものであることを自叙伝がひも解いてくれると思います。
(サロンマスター 高田敬輔)


 結論から述べよう。『ジャネの法則』から『自叙伝の法則』が導かれる。
 この命題は私の体験に基づく。『自叙伝の法則』も私が勝手に導いたものである。というと、独りよがりのいい加減な説に思われるかも知れない。しかし、私は多くの人たちから共感を得られると思っている。
 私は、二十歳代、三十歳代、四十歳代、五十歳代と、ただひたすら仕事とささやかな趣味に没頭してきた。ふと、ある時、例えば、誕生日を迎えたとき、歳末や正月のとき、昔なじみの級友たちと同窓会に集ったとき、過去の日々を詳しく思い出せるのは、意外にも遠い昔のことであり、決して近い昔のことではないことに気がつく。二十歳代の頃の思い出は沢山あるのに、五十歳代の頃の思い出は悲しいほど少ない。言い換えると、二十歳代の十年間よりも、五十歳代の十年間は、ずっと短く感じられる。五十歳代の十年間は、いったい何をしていたのかと情けなくなる。このようにして、物理的な時の長さに比べて、人が感じる時の長さは、年齢に依存する。このことを、昔、フランスの心理学者ジャネは、「人が人生のある時期を感じる長さは、その人の歴年齢に反比例する」という法則として唱えた。すると、二十歳代の若者が感じる一年の長さは、六十歳代になって感じる一年の長さの三倍ということになる。
 さて、私は『ジャネの法則』を知る前から、年を重ねるにつれて、一年の長さが次第に短く感じられることを意識していた。そして、六十歳を超える頃から、こんなことでは、自分がこの世に生きていた証を何も残さずに朽ち果ててしまいそうな気になった。「こんなことなら、日記でも付けておけば、記憶が薄れても記録は残ったのに」と悔やんだが、時すでに遅し。「そうだ、記憶の確かな内に自叙伝を書くのが良い!」と思い立った。
 そこで、人は誰でも、ある年齢にさしかかると、時の進行が速まることに気が付き、記憶の確かな内に自叙伝を書こうと思い立つ。これが『自叙伝の法則』。言うまでもなく、この法則は『ジャネの法則』から導かれる。
 さて、自叙伝といっても、文学の素養のない自分には何から始めたら良いのか、かいもく見当が付かない。ずっと理系の人間で通してきた自分にとって、文学は最も遠い、縁のない世界であった。それが、何故か文学の力に目覚めたのである。文章は、書き方によっては、計り知れない感動を他人に伝えることができる。自叙伝といっても、日記風に出来事を順に述べるのではなくて、人生の幾つかの時点でキラ星のように輝く出来事をエッセイ風に綴ってみたいと思っている。


「奈良県明日香村で撮影した雨上がりの彼岸花」
(今井さん撮影)
◇プロフィール
金石中学―二水高校―大阪大学基礎工学部―大学院卒、大阪大学医学部、大学院生命機能研究科を経て、2002年より法政大学工学部教授(現在、生命科学部)。
幼年時代は能登で、少年時代を金石で過ごす。1961年、大学進学のため一人大阪へ。電気工学科卒業後、大学院から生命科学の世界へ。
以後、医学部生理学講座勤務。大阪で41年間過ごした後、2002年から東京の法政大学へ単身赴任。
週末に大阪の留守宅に帰って、趣味の写真と合唱を楽しんでいる。
法政大学生命科学部分子生体機能学研究室   http://www.hosei.ac.jp/seimei/seimeikinou/kyoshokuin.html



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